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あなたの隣の免疫不全系男子

かなりフツーです

HIVを持っている人に、強い恐怖心を感じている人もいるみたいです。でも、実際は「自分でHIVを持っていることがわかっている人」について、そんなに...と言いますかまったく怖がる必要ないです、という話を今日は書こうと思います。

 

自分がHIVを持っているとわかっている人...。この言葉ちょっと長いので、この記事では「PLHIV」と略します。People Living with HIV<HIVとともに生きる人たち>の頭文字です。

 

「そもそも、そんな人周りにいないし、関わったこともない」

 

そう思っている人もいると思います。

 

でも、実際には、身近にフツーにいます。あなたは、すでにPLHIVと一緒に暮らしているんです。僕は東京在住のPLHIVの一人ですが、毎日あたりまえのように電車やバスに乗り、会社で仕事をして、ランチは同僚と中華料理を食べ、仕事帰りには服を選び、スタバで友達とフラペチーノを飲み、ジムで運動して、コンビニでお菓子を買います。

 

2018年現在、日本のPLHIVの大部分は、それまで自分が暮らしてきた町でそれまで通りの平凡な暮らしをしています。そして、ご存知のように「死なない病気(よく考えるとこれも変な言葉ですが)」になったけれど流行は止まっていないので、PLHIVの数は増え続けています。日本の場合、毎年1500人ずつ新しい報告があって、累計で3万人の報告件数になっています(昨年・2017年の一年間では1407件の新規報告があったそうです)。

 

そんなふうに当たり前に暮らしてたら、俺らが危ないだろ!うつったらどうするんだよ!

 

そうなんです。誰もがそう思っていたときがありました。HIVを持った人の隔離や移動制限が、世界中で検討されました。日本も同様でした。

 

ですが...、それは今から30年以上前、いわゆる「エイズパニック」の時代の話。もしあなたが今もそう考えているなら、相当にキャッチアップが遅れています。

 

「感染する」ことに焦点を当てた場合、2018年の日本でPLHIVの誰かと一日中ずっといっしょに過ごしたところで、それが原因であなたがHIVに感染することはありません。同じコップで水を飲んでも、同じお風呂に入っても、同じ蚊に刺されても、何かの流れでキスすることになっても、極端な話コンドームなしでアナルセックスしたって、HIVはあなたにうつりません。

 

だからこそ、PLHIVの人は普通に街の中でみんなと一緒に暮らしているわけで、別に特別にふてぶてしいとか強がっているとか、そういう話ではないのです。

 

ひとつ客観的な視点を紹介します。

 

日本の法律に感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)というものがあります。感染力や感染経路、重篤性などの特徴に応じて、既知の感染症の病原体を5つの類型に分けて、国や医療機関が取るべき対応を定めています。

 

第一類が「国民の生命に極めて重大な影響を与える病原体」で、エボラ出血熱などはこの分類です。そして第二類、第三類と数字が増えるごとに深刻さが小さくなり、第四類は動物が媒介するもの(動物への措置が併せて必要なもの)。そして、第五類は国民への情報提供が必要なもので、インフルエンザなどがこの分類です。第一類から第四類までは、即日国に報告をする必要があり、入院や就業制限などの措置が取られる場合がありますが、第五類は一週間以内に報告すればよく、個人名の届けも不要で、特別な措置もなされません。

 

HIVは、どの分類でしょう?

 

第五類です。鳥インフルエンザやSARSとは違って、現在のHIVは国が登場しなければ感染が予防できないような「恐怖のウイルス」ではないのです。

 

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あるウイルスがあなたに感染するかどうか。それは、いくつかの要素で決まります。

 

そもそもの前提として、ウイルスには特有の感染経路がそれぞれにあります。HIVは、HIVを含む体液が相手の粘膜や血管に接触することで感染します。インフルエンザのような空気感染や、O157のような経口感染はしないので、マスクや手洗いは関係ありません。

 

一般にウイルス感染を決定づける要素は、次の3つだと言われます。

 

1. 露出したウイルスの量
2. ウイルスに露出した時間
3. ウイルス自体の感染力

 

感染力の強い大量のウイルスに長時間露出すれば、感染が成立する可能性が高まります。逆に、感染力の弱い少量のウイルスに短時間露出しても、感染が成立しません。

 

PLHIVがあなたにウイルスをうつすおそれがない理由も、まさにここにあります。

 

HIVがあると知った人は、日本ではほぼ全員が治療を受けています(治療を受けつづけないでいるとエイズになってしまいますから...)。そして、あなたが出会うPLHIVの誰かの治療は、成功しているはずです(成功していなかったら、体がフラフラで街に出たりできないでしょう)。治療が成功した場合にウイルスの量がどのくらい減るかと言いますと、血液からHIVが検出されなくなります。そう、そこまで治療は進んでいるんです。僕自身、治療を開始して数か月して以降ずっとHIVは血液から検出されていません。

 

え!?じゃあ治ったんじゃないの?

 

そんな声が聞こえてきそうですが、これが難しいところ。血液から検出はされなくなるものの、身体の奥深くに潜伏しているウイルスは現在の医学ではなくせません。他人への感染は成立せず、本人の免疫が弱まることもない(むしろ回復していく)けれど、治療をやめることはできない。これが「治らない」と言われる所以です。

 

さらに、HIVは実は感染力がとても弱く、たとえば医療従事者の針刺し事故で感染が成立する確率は0.3%と言われています。これは、ウイルス性肝炎の100分の1くらいのへなちょこぶりで、しかもウイルス量が爆発的に多い無治療の人でこの数字ですから、PLHIVの場合だとゼロリスクと言ったほうが正確なんじゃないかとも思ってしまいます。

 

HIVは、体外で空気に触れてからの生存時間も短く、消毒もかんたん。同じ感染症の病原体でも、ノロのような屈強なウイルスとは真逆のひ弱さです。

 

いろいろ書いてきましたが、要するに...

 

心配しないで大丈夫です。PLHIVの誰かがあなたの目の前にいても、怖がる必要はぜんぜんありません。

 

ひょっとしたら、一度でもPLHIVの誰かが実際に目の前に現れれば、直感的にわかってもらえることも多いのかもしれません。言い出せないからわからない。わからないから怖いまま。怖がられるから言い出せない…。そんなループから抜け出せずに足踏み状態なのが、今の日本の現状なのかもしれません。

 

僕もPLHIVの一人です。

 

僕と同じ鍋をつついても、僕と同じプールで泳いでも、僕に頭をなでられても、あなたはHIVに感染しません。

 

そして、僕と同じ職場で仕事をしていても、当たり前ですが、あなたがHIVに感染することはありません。たまに「もし大量出血したらどうなんだ」という反応があるらしいですけど、そもそも仕事中に大量出血するような場面があるのかって話ですし、百歩譲ってそんな状況になったらまず僕の出血死のほうを心配してほしいです…。そして、治療が成功しているHIV陽性者である僕の血にあなたの傷口が触れて、それが原因で感染したら、ぜひ国際エイズ会議で発表してください。まずありえません。先ほども言いましたけど、治療が成功しているPLHIVの血からはHIVは検出されないんです。

 

僕は事務職をしています。しかし、仮に僕が料理人でも、保育士でも、美容師でも、看護師でも、HIVについて僕がお客さんや同僚に迷惑をかけることはないです。

 

もちろん、社会福祉士でも。

 

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漠然とした古いイメージを根拠に、不安や嫌悪感を感じていませんか。この機会に、ぜひ古い情報のアップデートをしてください。僕を含めPLHIVは、あなたが思っているよりずっとフツーの人で、すでにフツーに暮らしていて、ずっとリスクがありません。そして、多様な職種で、すでにバリバリ仕事をしています。まあ、僕のことを実際に知っている人は、何あたりまえのこと言ってるんだと思うだけでしょうけど 笑

 

それでもまだ不安...というあなたには、東京都が出している公式の「職場とHIV/エイズハンドブック(H26年版H25年版)をとどめに紹介しておきます。他の社員と何も変わらず接すればいいだけ...という説明や事例が書かれていますけれど、これですらすでに5年前の古い資料です。

 

あまりにのんびりしていると、気が付いたらあなたの意識と感覚だけが時代に取り残されているかもしれないですよ。

 

ーーー

 

ちなみに

 

もう感染しなくなってるなら、どうして新規感染の報告が減らないんだ?と思った人もいると思います。そこは、この記事の冒頭で説明した言葉の定義を思い出してもらえると、整理できると思います。この記事で言っているPLHIVというのは、「自分がHIVを持っていると自分でわかっている人」です。

 

医学的にHIV Infectedと分類される人(俗にいうHIV陽性者)は、HIVを持っていることに「自分で気づいている人(治療を受けている人)」と「気づいていない人(無治療の人)」に分かれます。

 

もうお分かりですね。

 

ここを考えていくと、結局はHIV検査の話と差別の話になるんですけど、そこは以前の記事で書いているので、よかったら読んでみてください。

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