hirotophy

あなたの隣の免疫不全系男子

CD4に一喜一憂するぞ宣言

 

CD4が、病気が分かって以降の最高記録を更新した。

 

CD4というのは免疫の状態を表す指標で、数値が大きいほど免疫力が高いことを示す。健康な人で700~1500くらいの値だが、免疫機能障害になるとこれがじわじわ下がってくる。200を切ってしまうと、通常では発症しないような病気を発症する可能性(エイズを発症する可能性)が高まると言われる。

 

薬による治療がうまくいくと、CD4は回復してくる。ただ、その回復のスピードや程度は、個人差がとても大きいらしい。

 

服薬開始後の陽性者の予後は、このCD4の高さに比例して一定の傾向を見せるという見解もあるそうだ。

 

ptokyo.org

 

こういった話は、HIV感染が分かると、お医者さんから最初に聞かされる。当事者としては、自分の免疫力の指標たるCD4の値がどうしたって気になる。ところが、お医者さんは続けてこう付け加えるのだ。

 

「CD4の変動に一喜一憂してはいけません」

  

誤差が大きく、およその値にすぎないから、ということらしい。確かにそうなのだろうけれど、重要な値だとこれだけ前振りされたうえで「気にしないように」と言われても、困ってしまう。余計に気になりはじめる人だっているだろう。

 

そもそも、僕らにとって「改善し得る指標」はCD4しかない。

 

定期的に病院で検査する項目のうち、免疫不全に直接関係するのは、「血中ウイルス量」と「CD4」の二つだ。

 

前者の値は、文字通り血液の中のウイルスの量を示し、治療が成功すれば「検出せず」になる。その間わずか数ヶ月。医学の大勝利であり素晴らしいことだが、値の変化という面では「それ以上よくなることがない指標」でもある。

 

もう一つの指標・CD4だけが、昨日より今日、今日より明日と良くなっていく可能性があるわけだ。

 

かくいう僕も、病気がわかってから今まで、CD4の値をずっと気にしてきた。服薬を始めてから一年しか経っていない僕のCD4は、そこそこ大きく上下する。そうなると、やっぱり検査のたび結果が気になる。

 

当初は、先生の言うことを守ろうと、波を気にしないよう努めてみた。しかし、どうしても気になってしまうし、無理して関心を消すことへの違和感もあった。免疫力が回復する可能性に希望を持ちたかったし、そのために頑張ってもみたかった。

 

僕は、ほどなく方針を変えた。心の赴くままCD4の増減に一喜一憂しよう。あまりにも免疫が回復せず心が折れそうになったら、そのとき先生の意見を採用しよう。それまでは、CD4への向き合い方については、先生の指示を聞かない「悪い患者」でいさせてもらおう。先生、ごめんなさい....。

 

診察室をノックした。

 

「こんにちは。よろしくお願いします」
「ヒロトさん、こんにちは。その後、体調はどうですか」
「おかげさまで、あれ以降は何もありません」

 

「あれ」というのは、数週間前に風邪で高熱を出して病院に駆け込んだことを言っている。熱はほどなく引いたが、その直後に検査を受けたので、今から聞く検査結果は病み上がりのものだ。

 

けっこうすごい熱だったので、今回のCD4は最初からあきらめていた。

 

「先週の血液検査の結果ですが、問題ないですね。ウイルスは今回も検出されていません。肝臓や腎臓の値も…」

 

先生の「CD4に一喜一憂させない」ポリシーは徹底していて、CD4の説明はいつも最後だ。どのくらい下がってるかな…。僕は、先生の説明もそこそこに、検査結果がプリントされた紙にCD4の値を探した。

 

…お?…おおっ!

 

「先生、むっちゃ上がってますよCD4!」
「前回と比べると上がりましたね。ただ、あいまいな数値である点は考慮する必要があります」

 

下がっても上がっても同じコメントしかくれない、つれない先生。でも、そんなぶれない先生だからこそ、僕は信頼している。ファジーな数値の上昇に歓喜するポンコツポジティブの僕を、先生は笑顔で見守ってくれた。

 

「どうしてですかね。風邪で熱出したのがよかったのかな。たまに体調くずしたほうがいいんでしょうか」
「そんなことはありませんが…、体調が悪くてもこの値、ということで、それだけ底力がついたということでしょう」

 

底力…。

 

免疫が低い病気をこれからも抱えて生きていく僕には、なんとも心強い一言だった。

 

f:id:hirotophy:20170916194026j:plain

 

CD4を上げようと、思いつくものは片っ端から試してみた。生姜、白湯、シイタケ、バナナ、有酸素運動、入浴、日光浴、深い睡眠、笑顔…(唯一、試したくても試せずにいる「スキンシップ」が残っているが)。しかし、そんな僕の努力が存在しなかったかのように、CD4は気ままに上がったり下がったりを繰り返してきた。

 

今回にしても、どうしてCD4が突然はねあがったのか、皆目見当がつかない。次回また大きく下がるのかもしれない。お医者さんたちが言う「一喜一憂しない態度」が、いちばん合理的で賢明なのかもしれない。

 

それでも、僕はCD4が過去最高を記録した今日を喜びたい。嬉しいと思えることがあったら思い切り嬉しいと思えばいいし、裏切られたら思い切り落ち込めばいい。

 

それがきっと、いちばん僕らしい病気との付き合い方だ。